2019/01/11
『スマイル』モダン・タイムス (1936) チャールズ・チャップリン
サイレント映画というものは、現代人には馴染みが薄いと思います。世界初の映画は1890年頃に登場し「活動写真」と呼ばれました。当時はモノクロで音楽やセリフなどの音声がないもので、それから30~40年ほどは無声映画がブームとなり、発展と成熟を遂げることとなります。セリフがないので、字幕を合間に挿入したり、俳優の大袈裟な演技で表現したりしていたそうです。上映の際はフィルムにあわせてオーケストラで音楽伴奏をしたり効果音を付けたりしていました。なんとも贅沢ですね。その後、1920年代にトーキー映画(音楽や音声が入ったもの)が登場し、10年ほどをかけて移行していきます。この移り変わりの様子は、ミュージカル映画「雨に唄えば」を観るとよくわかります。それまでサイレントで演じていた俳優たちは、この変換期にとても苦労したでしょうね。
『モダン・タイムス』はトーキーが定着した頃の作品でしたが、全体的にはサイレント映画。音楽と効果音が付いていて、ちょっとだけセリフが入る…といったものでした。当時の映画評としては技術的な面からしてもやはり「時代遅れ」とされてしまったようですね。世界の喜劇王として人気のピークを迎えていたチャールズ・チャップリンが監督を務め、彼は他にも脚本・制作・音楽・主演…と、ほとんど全部に携わっています。彼はユーモアの中に強烈な社会風刺を織り込みました。世界は第二次世界大戦に向かい、不況下で労働者は機械のように扱われ、個人の尊厳はすでに失われている……社会の冷たさと不平等への憤りを表現した作品です。喜劇と悲劇は紙一重、それはチャップリンの作風の大きな特徴であり、私達の人生そのものかもしれないですね。
『スマイル』はモダン・タイムスの中で何度か使われますが、ラストシーンで流れるのが最も印象的。絶望してふさぎ込む少女をチャーリーが元気付け希望へといざなう…そんな場面に、叙情的でメランコリックなメロディが美しく響きます。音楽家を志していたチャップリン自身の作曲で、映画ではタイトルも歌詞もなくインストゥルメンタル(楽器だけの演奏)の曲でした。まるでプッチーニのアリアのような…とも云われたこの曲は、1954年に歌詞が付けられ、ナット・キング・コールによって歌われます。
心が痛む時も… たとえ傷ついたとしても…
空が雲で覆われても… 悲しみや苦しみを抱えていても…
いつも笑っていなさい… 微笑んでいなさい…
そうしたら君のためにまた太陽が輝いてくれるよ
というような、素敵な歌詞をつけてもらったスマイル。ポップスのスタンダードとなり多くのアーティストにカバーされていますが、マイケル・ジャクソン版が一番に有名ではないでしょうか。柔らかく包み込むようなキングの歌声も落ち着きますし、マイケルの美しく透き通った歌声もまた素晴らしい。マスターはエルヴィス・コステロの洒落っ気に富んだアレンジも気に入っています。そして透明感のある歌声を聴かせてくれる手嶌葵さんのカバーもオススメです。
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NO MUSIC, NO LIFE.
美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう