2020/09/16
Sonatine (1903) モーリス・ラヴェル
さて、マスターの敬愛するクラシック音楽家の一人にモーリス・ラヴェルという人がいるのをご存知でしょうか。彼は20世紀の初頭にパリで活躍したフランス人作曲家で、オーケストレーションの巧みさから「管弦楽の魔術師」と呼ばれています。音楽に対して、数学的な視点からの構築を試み、見事な芸術作品として完成させました。この時代には既存の音楽からの脱却を目指し、実験的な作品が数多の音楽家達によって作られましたが、耳で聞いて単純に美しいと思えるものは多くは存在しません。実験は実験のままに終わり混迷を極める音楽の世界の中で、ラヴェルはその優れたバランス感覚を十分に発揮し 新しく かつ美しい音楽を生み出しました。彼自身も自らの作品について『感性と知性の中間点』と表現しています。代表作はいっぱいありますが、一般的には「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「展覧会の絵」が有名どころではないでしょうか。オーケストレーションの実験的な作品では「ボレロ」、数学的なところを楽しむなら「ラ・ヴァルス」などがオススメです。僕は大学時代、管弦楽法の勉強が大好きで、ラヴェルの作品もよく研究させて頂いておりました。懐かしいです。
ラヴェルと同じ時代に生きた音楽家・芸術家は多いです。折しも当時のパリは、前衛的で国際的な刺激的な空気に満ち溢れていました。大御所サン=サーンスをはじめ、ガブリエル・フォーレ、エリック・サティ、エマニュエル・シャブリエ、クロード・ドビュッシー、シャルル・ケクラン、そしてロシアバレエ団バレエ・リュスのセルゲイ・ティアギレフ。互いに刺激しあい、影響を及ぼし、学び、薫陶を受け、反発と吸収を繰り返しながら芸術の発展に尽くします。音楽院時代にパリで開かれた万国博覧会では東洋の音楽(特にカンボジアやインドネシアのガムラン、タヒチ島の踊りなど)に出会い、若きラヴェルの感性を震わせたのでした。往年に演奏旅行で訪れたアメリカで、黒人霊歌やジャズに感銘を受け、教えを乞われたジョージ・ガーシュウィンに対して「あなたはすでに一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要などない」と言ったのは有名な話。
今回ご紹介する曲は「Sonatine」。ソナチネといえばピアノ教室に通っていた方であれば、少し弾けるようになった頃にフリードリヒ・クーラウやムツィオ・クレメンティなどの初級ピアノ作品を集めたソナチネアルバムを練習したのが懐かしいのではないでしょうか。「ソナチネ」というのは音楽形式の呼び方で、小さいソナタという意味があります。そもそも「ソナタ」とはソナタ形式を第一楽章に置いた4楽章構成のピアノ曲で、「ソナタ形式」とは2つのテーマが出てきて色々展開して最後にまた最初のテーマが出てきて終わる…みたいな感じで。この「コンサートでも聴かせれちゃうようなソナタ!」を、もっと短くして簡素化し難易度も抑えたものが「ソナチネ」と呼ばれています(明確な定義はないんだけどね)。
ラヴェルのSonatineはこの例にあらず。規模や形式的なところはソナチネですが、高い演奏技術が必要で、コンサートでもよく演奏され聴衆を甘心させています。アマデウス・モーツァルトやフランソワ・クープランを敬愛していたラヴェルは、古典形式への傾斜をSonatineという作品に映し出しました。ピティナ・ピアノ曲事典の解説によると、”ラヴェルが音楽雑誌主催の作曲コンクールのために書いた曲で、小節数の規定のため小規模な作品となっている。しかしどれもが魅力的な旋律で繊細な響きをふんだんに用いながらも、古典的形式に則っていて簡潔にまとめられ、実に見事な完成度を誇るソナチネと言えよう。曲は3楽章構成だが、第1楽章第1主題が第2、3楽章にも和声やリズムを変形しながら登場し、循環主題風に扱われている。作曲当時から大好評を博し、ラヴェルの名前を広めた1曲でもある。”…なるほど。なるほど。解説の通り一曲が3~4分ほどで全曲聴いても10分と少し。クラシックに馴染みのない人にも聴きやすい長さです。Youtubeでもコンサートのビデオなどを観ることができますので、ぜひ一度お試し下さいませ。
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NO MUSIC, NO LIFE.
美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう