2018/11/15
くるみ割人形 (1892) ピョートル・チャイコフスキー
クラシック・バレエというものは、僕たち一般庶民には馴染みの薄いものかもしれません。ただ、オペラやミュージカルに比べると劇中にセリフや歌詞を伴わない分、言語能力にとらわれずに外国の作品でもそのまま楽しむことができます。耳と目で感覚的に理解できるため、クラシック音楽への導入にはバレエ作品はとてもオススメです。
バレエ音楽「くるみ割り人形」はロシア人作曲家のチャイコフスキーによって書かれました。チャイコのバレエといえば白鳥の湖が有名ですが、このくるみ割り人形も耳にする機会は多いと思います。ソフトバンクのCM白戸家団らんの音楽として使われていた「葦笛の踊り」なんかは記憶に新しいのではないでしょうか。また「ロシアの踊り トレパック」を聴くとマコーレー・カルキンくん主演の映画ホーム・アローン(1990年公開)を観たくなります。全く違う曲なのですが映画サントラの曲調が似てるのでつい連想してしまうんですね。かつては可愛い子役で有名だったマコーレーといえばマイ・ガール(1991年公開)も大好きな映画でしたが、実は幼い頃からバレエを習っていて、くるみ割り人形の舞台にも出演していますし、映画版くるみ割り人形(1993年公開)でも主演を務めました。何かの因果を感じます。
くるみ割り人形のお話は、ざっくり言ってしまうとクリスマスの夜に女の子が見た素敵な夢の物語。プレゼントで貰ったくるみ割り人形がオモチャの兵隊を引き連れネズミ軍団と戦ったり、実はその人形はネズミの呪いで姿を変えられていた王子様だったり、雪の国やお菓子の国に招待されて歓迎の宴が催されたり…と、とってもファンタジックでメルヘンなストーリーです。元々の原作はドイツ人作家ホフマンさんの童話でした。2018年にはディズニー版の映画も公開され話題となりましたね。
日本の年末といえば何故かベートーベンの第九(よろこびのうた)ですが、欧米ではホリデーシーズンにあわせてチャイコのくるみ割り人形が盛んに上演されます。そこに親が子供を連れて観に行くのが習慣となっているのです。物語の舞台がクリスマスであること、演出がきらびやかで子供にも理解しやすいこと、そして上演時間が丁度よい1時間半ということ…このあたりが人気の理由でしょうか。
バレエ音楽「くるみ割り人形」には、演奏会向けに8曲を抜粋した組曲版があります。こちらは全体が25分程にまとめられていて、一曲一曲も短めなので更に聴きやすいと思います。ディズニーのアニメーション映画ファンタジア(1940年公開)でも、ストコフスキー指揮の演奏を楽しむことができます。余談ですがファンタジア2000に収録されている「すずの兵隊」はお話の雰囲気や空気感がなんとなくくるみ割り人形に似ていますが、こちらで演奏されている曲は僕の敬愛するショスタコーヴィチのピアノ協奏曲。ショスタコも同じくロシアの生まれですが、もう少し後の時代(ソビエトの暗い時代)に活躍した音楽家でした。社会主義国家という巨大な体制に抑圧され、時代に翻弄された悲劇の作曲家として有名です。
チャイコフスキーはくるみ割り人形を作曲した翌年、コレラ感染により53歳でこの世を去ります。ロマンティックなメロディは彼自身の繊細な心の表れであり、その心は常に孤児や不遇な動植物、同性愛などあらゆる弱いものに向けられ、彼らに理解を寄せて共に時間を過ごしたと伝記されています。マスターには少し甘すぎる音楽ですが、年に一回くらいは彼の深い愛情を感じながらロマンスに浸るのも悪くない…歳を重ねた今は、そんな風に思っています。
*
NO MUSIC, NO LIFE.
美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう